西野神社 社務日誌

札幌市西区の西野・平和・福井の三地区の鎮守(氏神様)であり、縁結び・安産・勝運上昇等の御神徳でも知られる西野神社の、公式ブログです。

埋井祭

昨日は、札幌市内某所の住宅解体現場で、「埋井祭」を執り行いました。
埋井祭というのは、需要が無くなって使われなくなったり、水脈が枯れるなどして使えなくなった井戸を埋める際に、その井戸の前で斎行する神事で、当社の場合、頻度としては1年に1回あるかないかの珍しい外祭ですが、たまに、今回のように解体業者から、解体作業中もしくは解体直前に現場で井戸が見つかったのでお祓いして下さい、という依頼をお受けして御奉仕させて頂く事があります。

井戸

井戸は、水道が無かった時代や、水道はあってもまだ広く普及はしていなかった時代、人が生きていく上で絶対に欠かす事の出来ない貴重な水を得るために掘って作られた大切な取水設備であり、そこで生活をしてきた人達は長い間その恩恵を受けてきたわけですから、不要になったからという人間側の一方的な都合で井戸を勝手に埋めてしまうのは水の神様(井戸の神様)に対して失礼に当たり、そのため、先ずは神様に対して今までの恩恵を感謝申しあげ、その上で、これから井戸を埋めさせて頂きますという事を奉告し、併せて、井戸を解体して埋める作業の安全も祈願する、というのが埋井祭です。

ですから、恩恵に感謝申しあげるという趣旨からいえば、本来は、その地にずっと住み続けて長年実際にその井戸を使ってこられた方々が神様に感謝申し上げるのが望ましく、解体業者の立場からすると、「単に現場でたまたま井戸を見つけてしまった」に過ぎないのですが、それでも、神霊に対して断りもなく勝手に水脈を絶ったり井戸を埋めてしまう事への畏れ(それによって事故や祟りがあるかもしれないという不安など)から、現実には、解体業者としても井戸を見つけた場合は一旦解体工事をストップし、神職によるお祓い(埋井祭)が終わるまでは再開しない、というのが一般的な慣例になっているようです。

また、井戸はその重要性故、古来より井戸そのものも信仰の対象とされる事があり(井戸に水神様がお祀りされる事もありましたし、井戸にまつわる禁忌もいろいろとありました)、民俗学的には、井戸は、地下にあるとされる黄泉の国へ繋がる“異界への入口”とも考えられてきました(昔の怪談でよく描かれる、井戸に幽霊が出る描写などは、その一例です)。兎も角井戸は、我が国では昔からとても大切で神聖なものとして扱われてきたのです。
ちなみに、埋井祭は、地域や神社によって、その次第や所作に差異がありますが、当社が執り行う埋井祭では、普段の神事ではまず使う事のないウメボシやヨシも使います。

現在、埋井祭で見かける井戸の大半は、私達が井戸と聞いて先ずイメージするであろう、時代劇に出てくるような本格的な井戸(武家屋敷の敷地にあったり、あるいは、長屋の直ぐ側にあって町人達が日頃使っているような大きな井戸)ではなく、かなり小型のもので、私が今まで見た限りでは、ポンプや配管の一部が残っているだけだったり、もうほとんど埋まっていて数十センチの浅い穴がある程度だったりする事が多かったです。
しかし、昨日の埋井祭で見た井戸は、珍しくかなり本格的な井戸で、井筒の直系は1メートルくらい、深さは、井戸の底が全く見えなかったためあくまでも私の推測ですが、浅くても5メートル以上、深ければ10メートル以上はあるかも、という感じで、「札幌市内の住宅街の一画に、よくこのような立派な井戸が残っていたなぁ。まるで貞子が出てきそうな井戸だな…」と思いました。
そうしたら、解体業者さんの一人も、その井戸を見ながらボソっと一言「貞子が這い上がってきそうな井戸だな」と呟いておられたので、現在に於ける井戸の代表的なイメージは、時代劇ではなく、「リング」シリーズのヒロイン(?)である貞子なのかもしれませんね(笑)。

 

文責:西野神社権禰宜 田頭