今日と明日の両日、「悠紀殿」(ゆきでん)「主基殿」(すきでん)「廻立殿」(かいりゅうでん)などを中心とした、皇居 東御苑に特別に造営された、複数の殿舎から成る神殿「大嘗宮」(だいじょうきゅう)に於いて、令和の「大嘗祭」(だいじょうさい)が執り行われます。

毎年秋、天皇陛下は、その年の新穀を御自ら皇祖 天照大御神様をはじめとする天神地祇に供され感謝を捧げ、併せて、五穀豊穣、国家・国民の安寧と発展、世界の共存共栄などを祈念される「新嘗祭」(にいなめさい)を御斎行になりますが、それら年毎の新嘗祭のなかでも、陛下が即位後初めて御斎行になる新嘗祭だけは「大嘗祭」と称され、平年の新嘗祭とは明確に区別されています。
大嘗祭は、天皇御一代に一度だけ行われる特別な宮中祭祀で、陛下が御位につかれる上で不可欠なものであり、数ある宮中祭祀の中でも最高の重儀とされています。
以下の写真2枚は、今夜から明日未明にかけて斎行されている、大嘗祭の中心的儀式である「大嘗宮の儀」の様子として先程公開されたばかりの写真です。天皇陛下は、純白の御斎服をお召しになって祭祀に臨まれています。


即位(皇位継承)には、大小合せていくつもの儀礼が伴いますが、特に代表的で大きな儀礼・行事として、「剣璽等承継の儀」「即位の礼」、そしてこの度の「大嘗祭」の、三つを挙げる事が出来ます。
「剣璽等承継の儀」は、先帝より皇位を継承された新帝が、皇位の証である「三種の神器」のうちの剣と玉、そして、国事行為の際に使用される国璽や御璽を受け継がれる儀式で、今上陛下が践祚されて「令和」に改元された本年5月1日に執り行われました。
「即位の礼」は、先月22日付の記事で詳述した通り、天皇陛下御自らが全国の国民や諸外国に対して即位を宣明される儀式で、先月22日に執り行われました。
これら「剣璽等承継の儀」と「即位の礼」の完了によって、新帝の即位、つまり先帝からの皇位継承は、“法的” にも “政治的” にも既に完了しているといえ、そういった意味では、その上であえて別儀として斎行される大嘗祭は、御大礼の諸儀式の中では法的・政治的な儀式というよりは純然たる “祭祀” としての性格を持った儀礼といえます。
戦後の日本文学界を代表する作家のひとりで、ノーベル文学賞候補にもなった三島由紀夫は、かつて、世界各国にいる大統領や国王などと、我が国の天皇との違いについて、このように述べました。『大統領とは世襲の一点において異なり、世俗的君主とは祭祀の一点において異なる』と。
これは、天皇が天皇であるために祭祀がいかに重要であるかを的確に言い表わした発言であり、祭祀王であられるその天皇陛下が御斎行する祭祀の中でも頂点に位置するのが、この度の大嘗祭なのです。
ところで、柳田國男や南方熊楠などと共に我が国を代表する民俗学者であり、國學院大學で教鞭もとっていた折口信夫は、自著の中で『恐れ多い事であるが、昔は、天子様の御身体は、魂の容れ物である、と考へられて居た』と独自の解釈を述べた上で、大嘗祭に於いて、『天皇霊が(身体に)這入(はい)つて、そこで、天子様はえらい御方となられるのである』と主張しました。
折口によるこの主張は、大嘗宮の悠紀殿・主基殿の内陣中央の寝座に寝具が用意される事から、「大嘗宮の儀」に於いてそれに天皇がくるまる秘儀が行われるのではないか、という推察に基づいているのですが(所謂 “同衾説” )、歴史的資料にそのような記述は見られず、また、そういった呪術的な秘儀のイメージを打ち消すかのように、宮内庁は平成2年の大嘗祭直前に行った記者会見で、大嘗宮の儀について「特別の秘儀はありません」「天皇は寝床に触れる事すらありません」とコメントしており、そのため現在、折口のこの考えには否定的な学説が有力となっています。
しかし、「天皇が寝具の中に入られる」といった類の秘儀が無かったとしても(実際無いのでしょうが)、大嘗祭が祭祀であり神事である以上、大嘗祭そのものに国家を挙げた “神懸かりの秘儀” 的な性格がある事は否定出来ず、「天皇は大嘗祭を行う事で “完全な天皇” になる」という折口の主張は、大嘗祭の意義を考える上では興味深いものがあります。
参考までに、以下に、この度の大嘗祭に関するニュースのツイートを紹介させて頂きます。只今宮中では、令和の御代に於けるただ一度の「大嘗宮の儀」が、大変厳粛に斎行されております。
14日から「大嘗宮の儀」 皇居・東御苑で https://t.co/WkYEi49udR @Sankei_newsさんから
— 西野神社権禰宜 田頭寛 (@h_tagashira) November 14, 2019
14日に大嘗宮の儀 儀式の詳細は「秘事」https://t.co/A8uLNWug5Q
— 産経ニュース (@Sankei_news) November 13, 2019
主要部分は例年の「新嘗祭(にいなめさい)」などと同様、公開されず、宮内庁は儀式の詳細については「秘事」を理由に明らかにしていません。
「大嘗祭」 儀式の内容から歴史までを詳しく | NHKニュース https://t.co/xK97m9ZYHu
— 西野神社権禰宜 田頭寛 (@h_tagashira) November 14, 2019
【主張】令和の大嘗祭 陛下の祈りは国民と共に 日本の公事と位置づけよう https://t.co/YWbH3gXeeh @Sankei_newsさんから
— 西野神社権禰宜 田頭寛 (@h_tagashira) November 14, 2019
「大嘗宮の儀」始まるhttps://t.co/WcjXtmBxQi
— 産経ニュース (@Sankei_news) November 14, 2019
皇位継承に伴う一世一度の重要祭祀(さいし)「大嘗祭(だいじょうさい)」の中心的儀式「大嘗宮(だいじょうきゅう)の儀」が14日夜、皇居・東御苑で始まりました。
【大嘗宮の儀】
— 産経ニュース (@Sankei_news) November 14, 2019
舞台となる大嘗宮は日没後、かがり火と灯籠の薄明かりの中に、幻想的に浮かび上がりました。https://t.co/3sfvrkjcOg
天皇陛下の即位に伴う「大嘗祭」(だいじょうさい)の中心的な儀式「大嘗宮の儀」(だいじょうきゅう)は、先ほど、天皇陛下が、皇居に設営された「大嘗宮」の「悠紀殿」(ゆきでん)での拝礼を終えて退出され、前半にあたる儀式が終了しました。https://t.co/aMNAzej3OC#nhk_news #nhk_video pic.twitter.com/W7zs3dv3xJ
— NHKニュース (@nhk_news) November 14, 2019
今日もしくは明日は、当社を含め全国各地の神社に於いても、聖上に倣い奉りて、神社本庁からの通達でいうところの「大嘗祭当日神社に於て行ふ祭祀」を大祭として執り行い、陛下の即位をお祝い申し上げると共に、皇室の安泰、国家の繁栄などを慎んで御祈念させて頂きます。
ちなみに、神職の青年会である「神道青年全国協議会」が本年6月に発行した会誌「神青協通信 第139号」の中では、宮中で斎行される大嘗祭と、各神社で斎行されるこの「大嘗祭当日神社に於て行ふ祭祀」との関係について、以下にように説明されています。
『御即位に際し、全ての神祇を敬ひ崇め奉るのが朝廷の基本理念である。しかし、全ての神祇に幣帛を奉るのは現実的には難しく、代表として皇室と縁の深い神社を選び幣帛を奉ることとなった。かうした伝統を引き継ぎ、「登極令」第一二条では神宮並びに官国幣社への奉幣が明文化されてゐる。
官国幣社への奉幣が全ての神社を代表して行はれるものであることは、大正四年七月五日勅令第一〇九号において、官国幣社のみならず、府県社から無格社に至るまでの全ての神社に大嘗祭当日の祭典執行を命じてをられることから明らかである。
つまり、「即位礼及大嘗祭ノ当日官国幣社以下神社ニ於テ行フ祭祀」とは、神職・氏子が自発的に行ふ奉祝の祭祀ではなく、新帝陛下の御任(みよさし)により勅を奉じて執行する、大嘗祭と連動した国家的祭祀である。』