西野神社 社務日誌

札幌市西区の西野・平和・福井の三地区の鎮守(氏神様)であり、縁結び・安産・勝運上昇等の御神徳でも知られる西野神社の、公式ブログです。

ピースボートという団体

今日、神社に出社してみると、社務所のテーブルの上に、「世界一周の船旅」と書かれた世界一周旅行(クルーズ)の参加者募集のポスターが置いてありました。何日か前に、「是非このポスターを貼って下さい」と言って一人の男性が、そのポスターと、資料請求のための専用葉書数十枚を当社に持ってきたのだそうです。基本的に神社は「来る者は拒まず」という姿勢ですから、神社としてはとりあえずそのポスターと葉書を受け取ったのですが、そのポスターは緊急性の高いもの(例えば行方不明の人やペット探しなど)ではないので、実祭には掲示板に貼られることなくそのままテーブルの上に放置されていました。

今朝、テーブルの上に置かれていたそのポスターを、改めてじっくりと読んでみました。この世界一周クルーズは、横浜・神戸発着で来年の6月から9月にかけて103日間をかけて世界を一周するそうです。参加費は148万円で、「参加費が割引になるボランティアスタッフも大募集!」と書かれていました。それはいいのですが、このクルーズの主催者の名が「ピースボート」となっていることが気になりました。どこかで聞いたことのある団体だな、何の団体だったかな?と思い、それをずっと考えていたのですが、社務を終え家に帰ってからやっと思い出しました、何年か前に読んだ小林よしのり氏のエッセイ・マンガ「新・ゴーマニズム宣言スペシャル・脱正義論」の中に、ピースボートという団体名が出てきたことを。

改めて同作品を読み返してみると、作中では薬害エイズの被害者を支える団体の一団体としてピースボートという名が出てきていました。しかしあまり好意的な描き方はされておらず、作者には「運動それ自体が目的化した団体」と評されていました。そして、作中で「ピースボートの辻本というねーちゃん」とキャプション付きで描かれていた女性は、同作品を初めて読んだ当時は気付きませんでしたが、今読むとこれは社民党辻元清美議員(同作品発表時はまだ国会議員にはなっていませんでした)のことのようです。ネットなどで調べてみますと、ピースボートは辻元議員が早稲田大学に在学していた昭和58年に創設した団体(民間レベルでの国際交流を目指すNGO)で、そのためか、ピースボートの政治的な提言や声明は社民党の政策と完全に一致しており、ピースボートが所謂“左”系の団体であることは間違いないようです。

そして、再び思い出しました。確か昨年か今年の初め頃に読んだ本のなかにも、ピースボートという名前が出てきていたぞ、ということを。そこで、我が家の本棚に収納されているそれらしい本を何冊かペラペラとめくってみて、その本『「北方領土」上陸記』(文春文庫)を見つけました。この本は、保守的な論陣を張ることで知られる女流作家の上坂冬子さんが書かれた本で、以下は同書からの抜粋です。

ピースボートという日本の市民団体が、所定の審査や手続きを一切行わず五百二十七名の日本人を、ロシア側の了解のみで国後島に上陸させて問題となった。所定の手続きを済ませたにもかかわらず、紆余曲折のもとに渡航許可を得た私としては憤懣やるかたない。ピースボートの一行は日本側で決めた手続きを省略し、ロシア側の了解のみで北方領土に上陸したのだから、結果として日本政府の主張に逆らって四島をロシア領と認めたことになる。もちろんロシアが日本との合意事項を無視して彼らを受け入れた点も見逃せない。これが正当化されたとすればどうなるか。(中略)もしここでピースボート渡航を安易に認めたなら日ロ間の領土問題はなしくずしに消え、ロシア側の思惑通り北方領土は事実上ロシアのものとして投資の対象にされかねない。長い間、政府間で腫れ物にさわるようにして慎重に扱い、苦肉の策としてビザなし交流の枠を設けた両国の合意は何だったのか」。

ここで述べられているピースボートによる国後島への渡航は、事前に外務省より渡航自粛要請を受けていながら、それを無視して第38回目の世界一周クルーズ中に強行したものだそうです。

つまり、ピースボートとはそういう団体で、どうも神社界とは、全く妥協点が見出せない程考え方が対極にある団体のようです。神社界は、神道政治連盟(神政連)、神道青年全国協議会(神青協)、北海道神道青年協議会(道神青)などを通して、元島民や根室市内の神社とともに北方領土の返還運動には深く関わっており、また私自身も、直接的には返還運動には関わっていないものの四島一括返還を目指す政府の立場を支持しているため、私は神道人としても、また個人的な立場からも、ピースボートのこういった態度を容認することはできません。

当社にクルーズの案内ポスターと申し込み葉書を持ってきたピースボートの担当者(営業?)は、そういったこと(神社界が時局問題に対してどういった対応をとっているのか、神社界が近現代史においてどのような歴史観を持っているのか)を認識した上でそれらを持ってきたのでしょうか。もし全てを承知の上で当社に来たのであれば、大した根性です(笑)。

ちなみに、辻本センセイの地元は関西なので(衆議院議員選挙大阪第10区から立候補し比例代表近畿ブロックで当選しています)、関西においては、センセイの出身・支持母体であるピースボートはそれなりに知名度が高いのかもしれませんが、北海道においてはマイナーな団体です。

そこで、ピースボートがどういう団体なのか、少し興味が湧いてきましたので、先程、ピースボートの公式HPを読ませていただきました。ピースボートのHP上では、自らの団体と、ピースボートの中心的事業と位置付けている世界一周クルーズ(年に2回以上実施されているそうです)の目的を次のように説明していました。

ピースボートは、みんなが主役で船を出す、を合い言葉に集まった、好奇心と行動力いっぱいの若者達を中心に、アジアをはじめ地球の各地を訪れる国際交流の船旅をコーディネートしている非営利のNGOです。ピースボートが目指すもの、それは各寄港地のNGOや学生達と交流しながら、国と国との利害関係とはちがった草の根のつながりを創っていくこと。そんな地球市民のネットワークづくりのために、1983年から地球一周など54回のクルーズをコーディネートし、これまでに80カ国以上の世界の港をめぐってきました。(中略)実はこのクルーズが生まれるきっかけとなったのは、その当時国際問題化した教科書問題。教科書検定のさい、日本のアジアへの軍事侵略が進出と書き換えられるという報道に対して、アジアの人々が激しく抗議したというものでした。このとき今まで自分たちが学んできた歴史は本当のことなのだろうか?という疑問と、実際はどうだったのだろうかという興味をもった若者たちが、じゃあ現地に行って自分たちの目で確かめてみよう、と考えたのが出発点でした。

地球市民”とか“日本のアジアへの軍事侵略”とか“アジアの人々が激しく抗議”など、左翼の人たちが好んで使うキーワードが満載の文章です(笑)。そもそもこの企画の発端が教科書問題にあると説明されていることからも、ピースボートの主催する世界一周クルーズが純粋な観光旅行でないことは明らかです。世界中の“市民”たちと交流しながら、平和、民主主義、人権、環境問題などをテーマに討論を重ねたりインタビューをしたり講演を聞くなど、反体制という明確な政治的意図を持ちながら世界を一周するのです。

この世界一周クルーズの途中で国後島に上陸して問題になったことは前述した通りですが、実はピースボートは、世界一周クルーズの途中で北朝鮮へも過去数回に亘り渡航しています。万景峰号をチャーターして北朝鮮へのクルーズを行ったこともあり、北朝鮮とは良好な関係も築いているようです。ピースボートは、日本人拉致問題の解決よりも北朝鮮への戦争賠償や謝罪の優先を訴えており、また、反対世論の声が強い時にも敢えて北朝鮮への経済援助を行うべきだと訴えていることなどからも、北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会救う会)や日本会議などと連携して日本人拉致問題の解決に全力を注いでいる神社界とは、ここでもやはり対極の立場にあります。

ところで、ピースボート核兵器の廃絶を訴え続けてきた団体でもあるのですが、とても不思議なことに、昨年2月に北朝鮮が核の保有を宣言した際には、何の抗議声明も発表していません。そして今月になって、ようやく「北朝鮮の核実験に抗議し、即時対話を求めるピースボート緊急声明」という題の声明を発表しました。少し長くなりますが、以下にその声明の全文(5か条)を転載します。

【1】 10月9日午前、朝鮮民主主義人民共和国北朝鮮)政府は核実験を実施したと発表しました。私たちは、核実験に対して強く抗議します。核実験は、周辺住民の生命を脅かしています。核開発は北朝鮮に暮らす人々の飢餓、貧困、人権抑圧を悪化させ、核保有朝鮮半島、日本、そして東アジア、ひいては世界全体に対する深刻な脅威をもたらします。私たちは北朝鮮政府に対して、さらなる核実験や核兵器開発の一切を即時中止し、核兵器計画の完全放棄のために直ちに行動することを強く求めます。

【2】 北朝鮮を「悪の枢軸」と断じ、軍事的・経済的圧力をかけ続けてきた米ブッシュ政権の政策が、北朝鮮核兵器開発をエスカレートさせこの事態を招いたことで、米国中心の敵視・圧力外交の失敗は明白になりました。対話なき圧力は、問題の解決にはつながりません。ましてや軍事的対処や軍事的圧力は、かえって核危機を悪化させ、朝鮮半島における武力衝突を誘発する可能性を大いにはらんでいます。私たちは今こそ、北朝鮮に対する敵視外交の根本的な変更が必要であると考えます。

【3】 各国政府はただちに、今回の危機を平和的に解決するため、北朝鮮との対話に向けた外交を行うべきです。その場合、昨年9月の六カ国共同声明の原則、すなわち、北朝鮮が核を放棄すると共に、日米が北朝鮮の安全を保証し国交正常化と経済協力への努力を行うという包括的枠組みが、対話の土台となるべきです。6カ国政府は、6カ国首脳会談の緊急招集や、二国間直接対話など、あらゆる形で北朝鮮とのハイレベル対話を即時に行うべきです。これから行われる国連安保理の審議においても、同じ原則が適用されなければなりません。

【4】 私たちは、ヒロシマナガサキの人類史的経験に基づき、一日も早い核兵器の全面的廃絶を改めて求めます。今なお被爆に苦しむ朝鮮半島被爆者も、同じ願いをもっていると確信します。アメリカをはじめとする核保有国は、核軍縮交渉を誠実に行い完結するという国際合意を遵守していません。私たちは、すべての核保有国に対して核廃絶へ向けた具体的行動を求めると同時に、核兵器全面禁止条約の即時交渉開始を求めます。私たちは、北朝鮮の核実験を口実に日本や他の周辺諸国で核保有を主張しようとするいかなる動きに対しても、強く反対します。

【5】 北朝鮮の核危機は、南北朝鮮の分断に象徴される東北アジア地域の冷戦構造の表象でもあります。すなわち核危機は、日本による過去の戦争責任および冷戦構造下における拉致問題が未解決であることと同じ根をもつ問題であると私たちは考えます。日朝国交正常化交渉の空白が、今回の事態をもらたしたとも言えます。核危機の真の解決には、政府および市民のレベルで、この地域に脱冷戦をもたらし、地域に協調的な平和体制を作り出していくための幅広い取り組みが不可欠です。。このような状況の実現のために私たちは、朝鮮半島および朝鮮半島をはじめとする東北アジア地域の市民・NGOと連帯して、積極的に行動していきます。

この声明を読んで、私は思わず失笑してしまいました。声明のタイトルでは「北朝鮮の核実験に抗議し〜」と謳っているにも関わらず、肝心の声明の内容は、北朝鮮に抗議するどころか、むしろ北朝鮮にエールを贈る内容となっているからです。どう好意的に解釈しても、北朝鮮に向けられた抗議声明は最初の【1】だけで、あとの【2】〜【5】は全て、北朝鮮以外の国々への抗議声明となっており、声明のタイトルと声明の内容が激しく乖離しています(笑)。

【2】では、北朝鮮悪の枢軸と断じて圧力をかけ続けてきたアメリカの政策がこの事態を招いた、【3】では、各国政府は直ちに北朝鮮との対話に向けた外交を行うべき、【4】では、アメリカをはじめとする核保有国は国際合意を遵守していない、そして、もし北朝鮮の核実験を口実に日本や他の周辺諸国が核保有を主張しようとも強く反対する、【5】では、今回の核危機は日本による過去の戦争責任や拉致問題が未解決であることと同じ根を持ち、日朝国交正常化交渉の空白が今回の事態をもらたした、と言っており、要は、「日米をはじめとする諸外国が寄ってたかって北朝鮮をイジめたので、北朝鮮は核を持たざるを得なくなった」ということで、それに加えて今回の事態の根には「日本による過去の戦争責任」もあるとのことです。…私にとっては甚だ意味不明、理解不能な声明です。

少し話が逸れてしまいましたが、もし、反体制・反米の意識を同士とともに更に熱く深めたい、もしくは、全く逆(保守)の立場から敵情視察を試みたい、などという余程の強い目的意識がある場合は別ですが(笑)、純粋に観光旅行として世界一周を楽しみたい方は、私個人としては、商船三井客船の「にっぽん丸」や、郵船トラベルの「飛鳥II」、「ぱしふぃっく びいなす」などに乗船して優雅に世界を一周されることをお勧めします。

(田頭)